つかいの街道
退職金の受け取り方と活用
このクエストで晴らす霧:「退職金は、もらったら好きに使えばいい」というもやもや
全48枚・約16分
本コンテンツは一般的な金融知識の学習用です。将来の成果を保証するものではありません。
長く勤めた会社を離れるとき、まとまったお金が振り込まれます。退職金です。
長年の働きに報いる、人生でおそらく一度きりの、大きなお金。だから、こう思っていないでしょうか——もらったら、あとは好きに使えばいい。ようやく自由になったお金なのだから、と。
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責める話ではありません。退職金は「自分が稼いだご褒美」に見えて当然です。ふだんの給料と同じように、受け取ったら自由に使うもの——そう感じるのは自然なことです。
ただ、この霧の向こうには、意外な事実が隠れています。退職金は、受け取り方ひとつで、手元に残る額が何十万円も変わるお金なのです。
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「退職金は、もらったら好きに使えばいい」と思われがちですが——
給料の延長線上にある、ただの大きな入金。そう考えたくなります。ですが、ここでひとつ問いを立ててみましょう。
退職金は、毎月の給料と同じように税金がかかるのでしょうか。それとも、何か違う扱いがあるのでしょうか。
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答えは、まったく違う、です。
退職金は、税の世界で特別あつかいされています。給料やボーナスとは比べものにならないほど、税が軽くなる仕組みが、いくつも重ねて用意されているのです。まずは、その手厚さの正体から見ていきましょう。
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退職金は「三重の優遇」で守られている
退職金にかかる税は、なぜ軽いのか。理由は一つではありません。三つの優遇が重なっているからです。まず全体像を、一枚で。
- ① 退職所得控除——勤めた年数に応じた大きな控除を、まず差し引ける
- ② 2分の1課税——控除を引いたあと、さらにその半分にしてから税を計算する
- ③ 分離課税——他の所得と合算されず、退職金だけで税を計算する
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一つずつ、なぜそれが効くのかを見ていきます。丸暗記する必要はありません。「退職金には、こんなに守りが厚いのか」と体で分かれば十分です。
まず一つ目、いちばん大きな退職所得控除から。
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①退職所得控除——「勤めた年数」がそのまま非課税枠になる
退職所得控除とは、退職金からまず無条件で差し引ける金額のこと。ここを超えた分にしか、税はかかりません。
そして、この控除の大きさは——あなたが何年勤めたかで決まります。長く勤めた人ほど、非課税の枠が大きくなる。長年の働きに報いる、という思想がそのまま形になっています。
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計算式は、勤続20年を境に変わります。20年を超えると、1年あたりの枠がさらに大きくなるのが特徴です。
勤続20年以下=40万円 × 勤続年数
勤続20年超=800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
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たとえば38年勤めた人なら、枠はこうなります。20年ぶんの800万円に、超えた18年ぶん(70万円×18年)が積み上がります。
勤続38年の場合の退職所得控除の枠(この額までは非課税)
約2,060万円
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2,060万円——退職金がこの枠に収まっていれば、税は一円もかかりません。多くの会社員の退職金は、この控除の内側に収まります。
つまり、長く勤めた人ほど、退職金の大部分が非課税になりやすい。これが一つ目の優遇の底力です。
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②2分の1課税——超えた分も、さらに半分にしてから
では、退職金が控除の枠を超えたら、超えた分にまるまる税がかかるのでしょうか。
答えは、ノーです。ここで二つ目の優遇が働きます。控除を引いたあとの金額を、さらに2分の1にしてから、税率を掛けるのです。
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順番にすると、こうなります。控除を引き、半分にし、それにようやく税率を掛ける。二段構えで、課税の対象がぐっと小さくなります。
課税退職所得=(退職金 − 退職所得控除)×1/2
たとえば控除を超えた分が400万円あっても、税がかかるのはその半分の200万円に対してだけ。給料には、こんな「半分にする」優遇はありません。退職金だけの、特別な軽減です。
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③分離課税——他の所得と「合算されない」
三つ目の優遇は、少し地味ですが、効きます。分離課税です。
ふつう、所得はいろいろな種類を合算し、その合計に累進課税(高いほど高い税率)がかかります。ところが退職金は、給料や年金と合算されず、退職金だけで税を計算します。
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なぜ、これが効くのか。合算されないおかげで、低い税率の段からやり直せるからです。
もし合算されていたら
退職金が他の所得の上に積み上がり、その年だけ所得が跳ね上がる。累進課税なので、高い税率の段に一気に押し上げられてしまう。
分離課税だから
退職金は他の所得と切り離して、単独で税を計算する。累進の低い段から積み直せるので、高い税率に押し上げられずに済む。
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三つの優遇を重ねて見ると、退職金がいかに手厚く守られているかが分かります。大きな控除で削り、残りを半分にし、他の所得と切り離して低い段から計算する。だから多くの場合、退職金にかかる税は、額の大きさのわりに驚くほど軽くなるのです。
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では、あなたの場合はどうか
ここまで「税」を見てきましたが、退職金にはもう一つ、忘れてはならない問いがあります。それは——そのお金で、老後の暮らしがどれだけ支えられるのか、という問いです。
税の話に入る前に、まず退職金が「いくらの意味を持つお金なのか」を、自分の生活で感じてみましょう。
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老後の毎月の生活費のうち、公的年金でまかなえない分は、退職金や貯蓄で埋めることになります。あなたが望む暮らしだと、その「自分で準備する分」はどれくらいになりそうか——数字を動かして確かめてみてください。
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※ この計算は仕組みを理解するための簡易シミュレーションです。結果はあくまで目安であり、将来の成果を保証するものではありません。実際に受け取れる年金額は加入状況等によって一人ひとり異なります。
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※ この計算は仕組みを理解するための簡易シミュレーションです。結果はあくまで目安であり、将来の成果を保証するものではありません。
これは固定の前提を置いた、ごく簡易な目安です。実際に受け取れる年金額も、必要な生活費も、一人ひとり大きく異なります。将来の金額を保証するものではありません。
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出てきた金額を見て、退職金が「好きに使うお金」ではなく、この先何十年もの暮らしを支える土台だと感じられたでしょうか。だからこそ、受け取り方と使い方を、丁寧に選ぶ値打ちがあります。
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受け取り方は、大きく2つ——「一時金」か「年金形式」か
退職金の受け取り方は、会社の制度にもよりますが、大きく2つに分かれます(両方を組み合わせる「併用」ができる会社もあります)。
そして——ここが大事なところですが、どちらを選ぶかで、かかる税の種類そのものが変わります。
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一時金(一括で受け取る)
まとめて一度に受け取る。ここまで見てきた退職所得控除・2分の1・分離課税という三重の優遇が、まるごと効く。税制上、最も軽くなりやすい受け取り方。
年金形式(分割で受け取る)
数年〜十数年に分けて受け取る。この場合は退職所得ではなく『雑所得』として、公的年金などと合算して課税される。受け取る間の運用益が上乗せされる制度もある。
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一時金の光と影——優遇は最大、でも「自己管理」が要る
一時金は、三重の優遇がフルに効く、税制上いちばん有利になりやすい受け取り方です。まとまった資金が一度に手に入るので、住宅ローンの残りを返すなど、大きな用途にも動かせます。
ですが、光があれば影もあります。
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一度に大きなお金が手元に来るということは、それを何十年も自分で管理していく責任も、同時に来るということです。
一時金の光
三重の優遇がまるごと効き、税が軽くなりやすい。まとまった資金で、住宅ローン完済など大きな選択ができる。
一時金の影
計画的に使わないと、老後の途中で目減りしていく。大きな金額ゆえに、次に見る『まとまった資金ならではの危うさ』にもさらされる。
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年金形式の光と影——安定するが、税は重くなりやすい
もう一方の年金形式は、退職金を分割で受け取る方法です。毎年決まった額が入るので、生活の見通しが立てやすい。使いすぎを防げる、という安心もあります。
ただし、税の面では一時金より不利になりやすい。理由を見ておきましょう。
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年金形式で受け取る退職金は、退職所得ではなく雑所得として、公的年金などと合算されます。合算されると、あの分離課税の利点が使えません。さらに、公的年金と合わせた額が「公的年金等控除」の枠を超えると、その分に税がかかります。
公的年金等控除の最低額(65歳以上・公的年金等の収入が一定額未満の場合)
約110万円
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さらに、受け取る額が増えると、それに連動して国民健康保険料や介護保険料が上がることもあります。税だけでなく、社会保険料への波及もある——これが年金形式の「影」です。
年金形式の光
毎年決まった額が入り、生活の見通しが立てやすい。一度に使いすぎるのを防げる。会社の制度によっては、受け取るまでの運用益が上乗せされる。
年金形式の影
雑所得として公的年金と合算され、分離課税の利点が使えない。税が重くなりやすく、社会保険料も上がることがある。
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どちらが有利か——「勤続年数」と「退職金の額」で変わる
では、一時金と年金形式、どちらを選べばいいのでしょうか。
「一律にこちらが得」という答えはありません。分かれ目になるのは、主に退職金の額が、退職所得控除の枠に収まるかどうかです。
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大まかな見取り図を、一枚で。ただしこれは出発点にすぎず、実際は会社の制度や他の所得で変わります。
- 退職金が退職所得控除の枠に収まる → 一時金なら税がかからないことも。優遇をフルに使える一時金が有力
- 枠を大きく超える → 超えた分の扱いを、一時金・年金・併用で比べる価値が出てくる
- 運用利率のよい年金制度がある → 税の不利を、運用益が上回るか会社の制度で確認する
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大切なのは、自分の会社の退職金規程を確かめること。控除の枠に収まるのか、年金形式の運用利率はいくらか——それを知らずには、比べようがありません。まずは規程を開くところから始まります。
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数字が主役ではない——「受け取ったあと」の危うさ
税の仕組みを見てきました。ですが、退職金でいちばん怖いのは、実は税ではありません。
受け取ったあと、その大きなお金をどう守るか。ここでつまずく人が、少なくないのです。
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まとまったお金が口座に入ると、生活が一変したように感じます。気が大きくなり、ふだんなら選ばない大きな買い物や、よく分からない金融商品に、つい手を伸ばしたくなる。
そして——まとまった資金は、それを狙う人たちの目にも留まります。「あなたの退職金、寝かせておくのはもったいない」という誘いは、退職の前後に、いろいろな形でやってきます。
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退職金を守り、育てる——「分けてから、時間をかける」
では、受け取った退職金と、どう付き合えばいいのか。焦らないための、順序があります。急いで動かさず、まず分けることから始めます。
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- ① まず寝かせる——数年分の生活費を、すぐ引き出せる預金として確保する。心の余裕の土台になる
- ② 使う時期で色分けする——近く使うお金(数年内)、いずれ使うお金、当面使わないお金に仕分ける
- ③ 当面使わない分だけ、時間をかけて育てる——長く置ける分に限り、長期・分散でゆっくり運用を考える
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この順序の核心は、使う予定のお金と、当面使わないお金を、はっきり分けることにあります。
近く使うお金まで値動きのあるものに入れてしまうと、いざ使うときに目減りしているかもしれない。逆に、当面使わないお金を全部預金で寝かせるだけでは、物価の上昇に負けていくこともある。だから、時間軸で分けてから判断するのです。
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第2章で学んだ「長期・積立・分散」や、近く使うお金は投資に回さないという原則は、退職金という大きなお金でこそ効いてきます。金額が大きいぶん、判断の一つひとつが手取りと残額を大きく左右するからです。
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「自分でつくる退職金」も、同じ税で守られている
ここまで会社の退職金を見てきましたが、実は——自分で退職金をつくる仕組みも、国は用意しています。
その代表が、第2章で扱ったiDeCo(個人型確定拠出年金)です。iDeCoを一時金で受け取るときも、いま見た退職所得控除が同じように使えます。会社の退職金と、まったく同じ優遇の傘の下にあるのです。
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そして、同じ傘の下にあるからこそ——受け取る時期には注意が要ります。
会社の退職金とiDeCoの一時金を近い時期に受け取ると、退職所得控除を2回まるまる使うことはできず、重なりが調整されて税が増えることがあります。鍵になるのは、受け取る順番と、その間隔です。
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個別の税額は、専門家へ
ここで見てきたのは、退職金の税が決まる一般的な仕組みです。あなた自身の退職金にいくら税がかかるか、一時金と年金形式のどちらが有利かは、勤続年数・退職金の額・他の所得・会社の制度によって、一人ひとり変わります。
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今回のまとめ
- 退職金は三重の優遇(退職所得控除・2分の1課税・分離課税)で守られている。
- 控除の枠は勤続年数で決まる(20年超は1年70万円)。枠内なら非課税のことも。
- 受け取りは一時金(優遇フル・要自己管理)か年金形式(安定だが税は重め)。額と制度で有利さが変わる。
- 受け取ったあとは「寝かせる→色分け→当面使わない分だけ育てる」。使う予定と分けるのが核心。
- iDeCoの一時金も同じ退職所得控除。時期の重なりで控除が動く(改正中)。個別は専門家へ。
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今日からできること
- 自社の「退職金規程」を開き、いくら受け取れるか・一時金と年金形式のどちらが選べるかを確かめてみる。
- 自分の勤続年数から、退職所得控除の枠がおおよそいくらになるか、計算式に当てはめてみる。
- 退職金は「すぐ使う分・いずれ使う分・当面使わない分」に色分けする——という考え方を、頭の片隅に置いておく。
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この学びを使う前に
※ 本記事のシミュレーションや過去のデータは、将来の結果を保証するものではありません。
※ 個別の状況に関わる判断は、必要に応じて税理士・FP等の専門家にご相談ください。
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