つかいの街道
相続・贈与の基本
このクエストで晴らす霧:「相続は、お金持ちの家だけの話」というもやもや
全38枚・約14分
本コンテンツは一般的な金融知識の学習用です。将来の成果を保証するものではありません。
家族の間で「相続」や「贈与」という言葉が出ると、なんとなく身構えてしまう。難しそうだし、税金がかかりそうだし、なにより——
うちには、そんなに財産はないから。 そう思って、話題そのものを避けてきた人は多いはずです。
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責める話ではありません。相続や贈与は、言葉が硬く、税金の計算も複雑に見えて、「資産家の家の話」に感じられて当然です。
つかいの街道のこの霧——「相続は、お金持ちの家だけの話」を、今回は事実の側から晴らしていきます。向こうにあるのは、資産の多い少ないとは別の場所にある、もっと身近な問題です。
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「相続なんて、うちには関係ない」と思われがちですが——
財産が少なければ、相続で悩むことはない。税金もかからないし、手続きもいらない——そう考えたくなります。ですが、ここでひとつ問いを立ててみましょう。
「相続」で起きることは、税金だけなのでしょうか。
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答えは、ノーです。相続で起きることの大半は、税金の前にあります。
だれかが亡くなると、その人の持っていたすべての財産——預貯金、家や土地、車、ときには借金まで——を、残された家族が引き継ぎます。だれが・何を・どれだけ受け取るかを決め、名義を変える。この作業は、財産が多くても少なくても、必ず発生します。
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まず整理——「相続」と「贈与」は、渡すタイミングが違う
この街道で扱う2つの言葉を、最初に分けておきましょう。どちらも「財産を人に渡す」ことですが、渡すタイミングが違います。
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相続——亡くなった『後』に引き継ぐ
財産を持つ人が亡くなったとき、その財産が配偶者や子などに引き継がれること。一定額を超えた分に相続税がかかることがある。
贈与——生きている『間』に渡す
財産を持つ人が生きているうちに、無償で財産を誰かに渡すこと。受け取った側に贈与税がかかることがある。
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「生きているうちに贈与で渡しておけば、相続とは無関係」——そう思うかもしれません。ですが、この2つは地続きです。あとで見るように、亡くなる前の一定期間の贈与は、相続税の計算に引き戻されます。まずは「渡すタイミングが違う2つの制度がある」と押さえておけば十分です。
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だれが受け取る?——「法定相続人」という決まり
相続でまず決まるのは、だれが受け取る資格を持つか。これは本人の好き嫌いではなく、民法であらかじめ決められています。この人たちを法定相続人といいます。
配偶者(夫・妻)は、いつでも必ず相続人になります。そのうえで、配偶者と一緒に相続人になる人が、順番で決まっています。
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- 配偶者——常に相続人になる(内縁は含まない)
- 第1順位——子(子が先に亡くなっていれば孫)
- 第2順位——子がいなければ、親などの直系尊属
- 第3順位——子も親もいなければ、兄弟姉妹
上の順位の人がいれば、下の順位には回りません。たとえば子がいれば、親や兄弟姉妹は相続人になりません。
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いくらずつ受け取る?——「法定相続分」は分け方の目安
だれが相続人かが決まったら、次はどんな割合で分けるか。この目安も民法にあり、法定相続分と呼ばれます。組み合わせで割合が変わります。
- 配偶者と子 —— 配偶者 1/2、子(全員で)1/2
- 配偶者と親(直系尊属)—— 配偶者 2/3、親 1/3
- 配偶者と兄弟姉妹 —— 配偶者 3/4、兄弟姉妹 1/4
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ここで大事なのは、法定相続分はあくまで目安だということ。相続人全員が話し合って納得すれば、この割合どおりに分けなくてもかまいません。
その話し合いを遺産分割協議といい、まとまった内容を書面(遺産分割協議書)にします。逆に言えば、話し合いがまとまらないと、財産は宙に浮いたままになる——ここに、資産額とは関係のない、もめごとの入り口があります。
出典=国税庁 No.4132(相続人の範囲と法定相続分)。※法定相続分は民法に基づく目安で、実際の分け方は協議・遺言で変わる。
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「うちは財産が少ないから、もめない」は本当か
「もめるのは、財産がたくさんある家だけ」——これも、晴らしておきたい霧です。
むしろ、分けにくい財産こそ、もめの種になります。その代表が不動産(家や土地)です。預貯金は1円単位できれいに分けられますが、家は物理的に半分に割れません。
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たとえば、親の主な財産が実家(家と土地)だったとします。相続人は子が2人。
家に住み続けたい子と、その分の現金がほしい子。1つしかない家をどう2人で分けるか——これは、財産が「多い」から起きるのではなく、財産が分けにくい形だから起きる問題です。金額の大小とは、別の話なのです。
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では、税金は——「相続税」は、いくらから?
分け方の話が済んだところで、多くの人が最初に気にする相続税へ進みます。ここに、「お金持ちの家だけ」という霧の核心があります。
相続税は、受け継いだ財産のすべてにかかるわけではありません。一定の非課税ラインを超えた分にだけかかります。では、その税金は——いくらから始まるのでしょうか。
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答えは、財産の合計が基礎控除という非課税ラインを超えたとき。その基礎控除の額は、法定相続人の数で決まります。式はシンプルです。
基礎控除=3,000万円+600万円 × 法定相続人の数
法定相続人が3人なら、3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円。財産の合計がこの額以下なら、相続税はかからず、原則として申告もいりません。
出典=国税庁・財務省(相続税の基礎控除)。※2015年の改正で「5,000万円+1,000万円×人数」から現在の水準に引き下げられた(2026年時点)。
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この基礎控除があるおかげで、実際に相続税がかかる家は、思うより多くありません。亡くなった人のうち、相続税の課税対象になった割合を見てみましょう。
亡くなった人のうち、相続税がかかったのは(令和5年分)
約9.9%
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約10人に9人の家では、相続税はかかっていない。 「相続=多額の税金」というイメージは、多くの家には当てはまりません。
だからこそ、はっきりします。相続で本当に向き合うべきは、税金より前の——だれが何を引き継ぎ、名義をどう変えるかという手続きの部分なのです。
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2024年に登場した、忘れてはいけない義務——「相続登記」
その手続きの中で、2024年(令和6年)に大きく変わったものがあります。土地や建物を相続したときの名義変更、相続登記です。
これまで相続登記は「やってもやらなくてもよい」ものでした。それが、2024年4月1日から義務になりました。相続税がかかるかどうかとは、まったく別の話です。
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名義を変えないまま放置すると、次の世代でさらに相続が重なり、権利を持つ人がねずみ算式に増えて、いざ売ろうにも全員の合意が取れない——という事態になりがちです。相続登記の義務化は、こうした「持ち主のわからない土地」を減らすために始まりました。
これも、財産の多い少ないとは無関係。家や土地が1つでもあれば、すべての家に関わる話です。
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生きているうちに渡す——「贈与」の基本と、110万円の枠
ここから、もう一つの制度贈与に移ります。「相続で一度に渡すと税金が心配。それなら、生きているうちに少しずつ渡しておこう」——そう考える人のための仕組みです。
贈与にも税金(贈与税)がありますが、こちらにも非課税の枠があります。もっとも基本的なのが、暦年課税の年間110万円です。
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暦年課税——1年間に受け取った贈与のうち、贈与税がかからない基礎控除
約110万円
1年ごとに110万円までなら、贈与税はかかりません。毎年こつこつ渡していけば、時間をかけて財産を次の世代へ移せる——これが暦年課税の考え方です。
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2024年の大きな変更——「持ち戻し」が3年から7年へ
ところが、この「こつこつ贈与」に、2024年から重要なルール変更が入りました。生前贈与加算(持ち戻し)の期間の延長です。
もともと、亡くなる直前の贈与は、相続税逃れを防ぐため、相続財産に戻して相続税を計算し直す決まりでした。この「戻す対象の期間」が、3年から7年へ延ばされたのです。
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改正前(〜2023年の贈与)
亡くなる前 3年以内 の贈与を、相続財産に戻して相続税を計算し直した。
改正後(2024年〜の贈与)
戻す対象が 亡くなる前 7年以内 へ延長。駆け込みの贈与では対策になりにくく、より長い目での計画が要る。
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言い換えると、「亡くなる直前にまとめて贈与すれば節税できる」という駆け込みが、しにくくなりました。贈与で財産を移すなら、元気なうちから、長い時間をかけて——という方向に、制度が変わったということです。
出典=国税庁 No.4161(相続開始前に贈与があった場合の相続税額)。※7年への延長は段階的で、令和6年1月1日以後の贈与から適用。延長された4年分の贈与のうち総額100万円までは加算しない経過措置もある(2026年時点)。
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もう一つの贈与の道——「相続時精算課税」
贈与には、暦年課税とは別の選び方もあります。相続時精算課税です。名前は難しいですが、考え方はこうです。
親などから子・孫へ、まとまった額を先に贈与しておき、税金の精算は相続のときにまとめて行う。贈与のときには累計2,500万円まで贈与税がかからず、相続のときに、その贈与分も含めて相続税で計算し直します。
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暦年課税と相続時精算課税、どちらが有利かは——財産の額、渡す相手、渡す期間、その後の年数によって変わります。「どちらが得か」を一般論で言い切ることはできません。
そして、まさにこのわが家はどちらが有利か・税額はいくらかという個別の計算こそ、税理士など専門家の領域です。この街道では、制度の地図を渡すところまで。具体的な数字は、次の一歩で専門家と描きます。
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もめない準備は、3つ——「目録・遺言・話し合い」
税金の有利不利より、すべての家にとって先に効くのが、もめない準備です。ここまで見てきたことを、行動に落とすと3つになります。
- ① 財産目録——どこに何が・どれだけあるかを一覧にする(預貯金・不動産・保険・借金まで)
- ② 遺言——だれに何を渡したいか、本人の意思を残す
- ③ 話し合い——元気なうちに、家族で方針を共有しておく
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このうち遺言は、本人の意思をいちばん確実に残す手段です。代表的なのは自分で書く「自筆証書遺言」と、公証役場で作る「公正証書遺言」。
ただし、遺言があっても、配偶者や子などには最低限受け取れる取り分(遺留分)が法律で守られている、といった細かな決まりもあります。ここも、作り方の要件をふくめて専門家に相談する価値がある部分です。
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今回のまとめ
- 相続の中心は税金より前=だれが引き継ぎ、名義を変えるか。資産額に関わらず起きる。
- 相続税がかかるのは約1割(基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人を超えた分のみ)。
- 分けにくい不動産はもめの種。相続登記は2024年から義務(3年以内)。
- 贈与は暦年110万円が基本。ただし持ち戻しが3→7年へ。精算課税にも110万枠。
- もめない準備は財産目録・遺言・話し合い。個別の税額は専門家へ。
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今日からできること
- 実家や自分の家に「まだ亡くなった人の名義のまま」の不動産がないか、家族に一度たずねてみる。
- 自分(または親)のおおよその財産を、預貯金・不動産・保険・借金の4つで、ざっくり書き出してみる。
- 「エンディングノートってある?」など、軽い話題から、家族で将来の話を切り出してみる。
必要になったら、税理士・司法書士や、金融機関の相続相談窓口へ。初回無料の相談窓口も活用できます。
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この学びを使う前に
※ 個別の状況に関わる判断は、必要に応じて税理士・FP等の専門家にご相談ください。
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