守りの城塞
所得税・住民税の基本
このクエストで晴らす霧:「税金は天引きされるもので、自分では何もできない」というもやもや
全39枚・約14分
本コンテンツは一般的な金融知識の学習用です。将来の成果を保証するものではありません。
給与明細を開くと、「所得税」「住民税」という欄に、毎月まとまった額が引かれています。金額は自分で決めたわけではなく、いつのまにか差し引かれている。
だから、こう感じていないでしょうか——税金は、上から天引きされるもの。自分では何も動かせない、決まった負担なのだ、と。
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責める話ではありません。給与から自動で引かれ、明細の数字も細かい。税は「向こうから決まってやってくるもの」に見えて当然です。
守りの城塞のこの霧——「税金は天引きされるもので、自分では何もできない」を、今回は仕組みの側から晴らしていきます。向こうにあるのは、意外なほど手を動かせる余地です。
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「税金は、自分では動かせない」と思われがちですが——
天引きされる金額は固定で、こちらから触れる余地はない。そう考えたくなります。ですが、ここでひとつ問いを立ててみましょう。
そもそもあの税額は、何を元に計算されているのでしょうか。年収そのものに、そのまま税率を掛けているのでしょうか。
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答えは、ノーです。税金は、年収に直接かかるわけではありません。
ここに、天引きの霧を晴らす最初の鍵があります。税がかかるのは年収ではなく、そこからいくつもの金額を差し引いたあとの数字。その差し引く金額を「控除」と呼びます。
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税がかかるのは「課税所得」——収入から控除を引いたあと
税額の計算は、年収に税率を掛けて終わり、ではありません。まず年収から控除を引いて、税のかかる土台をつくります。その土台を課税所得といいます。
課税所得=収入−控除
税率が掛かるのは、いちばん左の課税所得に対してだけ。つまり、控除が大きくなれば課税所得が縮み、税も軽くなる——ここが「自分で動かせる」の正体です。
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給与をもらってから税がかかるまでには、実は2回、金額を引く場面があります。順番に見ると、流れがつかめます。
- ① 収入(年収)——ここが出発点。まだ税はかからない
- ② 給与所得控除を引く——会社員の『みなし経費』。ここまでが「所得」
- ③ 各種の所得控除を引く——基礎控除や社会保険料控除など、個人の事情ぶん。ここまでが「課税所得」
- ④ 課税所得に税率を掛ける——ようやく、ここで税額が決まる
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「収入」と「所得」と「課税所得」。似ていますが、税の世界ではきっちり別物です。この3段の引き算が、天引きされた金額の裏側で起きていたことのすべてです。
では、2回引かれる控除を、それぞれ覗いてみましょう。
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1回目の控除——給与所得控除(会社員の「みなし経費」)
自分でお店をやっている人は、仕入れや家賃といった経費を売上から引けます。では、会社員に経費はないのでしょうか。
あります。会社員には、収入に応じて自動で差し引かれる「みなし経費」が用意されています。それが給与所得控除です。
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給与所得控除には、下限があります。収入が少ない人でも、最低これだけは引かれるという保証額です。
給与所得控除の最低保障額(令和7年〔2025年〕の税制改正後)
約65万円
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収入が増えれば、給与所得控除の額も段階的に増えていきます。まず収入からこの経費ぶんを引く。これが1回目です。
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2回目の控除——所得控除(あなたの「事情」を反映する)
給与所得控除を引いたあとの金額が「所得」です。ここから、さらにもう一段引きます。それが所得控除。
こちらは、働くうえでの経費ではなく、あなた個人の事情を税に反映させるための控除です。家族を養っているか、保険料をいくら払ったか——事情が多い人ほど、引ける額が増えます。
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所得控除にはたくさんの種類がありますが、代表的なものを束ねると、性格ごとに整理できます。
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- だれにでも効く土台 —— 基礎控除(納税者本人に一律で認められる)
- 払った保険料ぶん —— 社会保険料控除(健康保険や厚生年金の支払い全額)・生命保険料控除・地震保険料控除
- 家族を支えている —— 配偶者控除・扶養控除(収入の少ない家族がいる場合)
- 大きな出費があった —— 医療費控除(年間の医療費が一定額を超えたとき)
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このうち、いちばん基本になるのが基礎控除です。特別な事情がなくても、納税者本人であれば認められる、いわば全員共通の土台の控除で、原則としてすべての納税者から差し引かれます。ただし、その金額は令和7年(2025年)の税制改正で大きく見直されました。
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大事なのは、金額を丸暗記することではありません。控除は種類が多く、当てはまるものが増えるほど課税所得が縮む——この構造をつかむことです。
天引きされた税額は「固定の負担」ではなく、控除しだいで動く。ここまでで、最初の霧はだいぶ晴れてきたはずです。
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いよいよ、税率をかける——所得税の「累進課税」
課税所得が決まったら、ようやく税率を掛けます。所得税の税率には、大きな特徴があります。所得が高い人ほど、税率が上がる——これを累進課税といいます。
日本の所得税は、5%から45%まで、7つの段階に分かれています。いちばん上の段階を見ると、その幅がわかります。
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所得税の税率は、課税所得に応じて何段階に分かれ、最高は
約45%
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「最高45%」と聞くと、身構えるかもしれません。ですが、この数字の読み方を間違えると、累進課税をこわがりすぎてしまいます。
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まず、いちばん大事な読み方から。45%という税率は、その人の課税所得の全部にかかるわけではありません。
課税所得が下から順に区切られ、それぞれの段に、その段の税率がかかります。最初の段には5%、次の段には10%……と、段ごとに別の率が積み重なる。だから、たとえ最高区分に届いても、45%がかかるのは、いちばん上の段に乗った分だけです。
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答えを一言で言えば、こうなります。高い税率がかかるのは、その区分を超えた分に対してだけ。
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まとめて一律、という読み方(誤解)
課税所得が入った区分の税率が、その所得の全部にまとめてかかる。だから高い区分に入るほど、全体が一気に重くなる。
段ごとに積む、という読み方(正しい)
低い段の分には低い税率、超えて上の段に乗った分にだけ高い税率がかかる(階段状)。上の段に届いても、下の段の分まで高くなるわけではない。
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イメージは階段です。全体がまとめて上の税率に切り替わるのではなく、乗った段の分だけ、その段の率で課税される。
この「超えた分にだけかかる」税率のことを、限界税率と呼びます。表に出ている5〜45%は、この限界税率のこと。一方、税額を課税所得全体で割った実際の平均の負担率は、それよりずっと低くなります。累進課税は、こわがる仕組みではなく、負担を所得に応じて分け合う仕組みなのです。
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この階段の計算を、毎回すべての段で足し算するのは大変です。そこで、同じ答えが一発で出るように、税率から一定額を引く形にまとめた式が使われます。
所得税額=課税所得 × 税率−控除額
たとえば課税所得500万円なら、20%の区分なので「500万円 × 20% − 42万7,500円 = 57万2,500円」。この末尾の「控除額」は、下の段に低い税率をかけ直す手間を省くための調整で、階段計算と同じ結果になります(2026年時点の速算表)。
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もう一つの税——住民税は「翌年」に、原則一律10%
給与から引かれるもう一つの大きな税が住民税です。所得税が国に納める税なのに対し、住民税は自分が住む都道府県・市区町村に納めます。学校や福祉など、身近な行政サービスの費用になります。
住民税には、所得税と違う二つの特徴があります。順に見ましょう。
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一つ目。所得税が累進(5〜45%)なのに対し、住民税の主な部分(所得割)は、所得の大小にかかわらず原則として一律(標準で10%)です。所得が高い人も低い人も、率は同じ。ここが所得税との大きな違いです。
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所得税(国税)
税率は課税所得に応じて5〜45%の累進。稼ぐほど、超えた分の率が上がる階段状。
住民税(地方税)
主な部分(所得割)は所得にかかわらず原則一律10%。これに、所得に関係なく全員がほぼ定額を負担する均等割が少し加わる。
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住民税は、この一律10%の「所得割」に、全員がほぼ定額で負担する「均等割」(年およそ5,000円)が加わって決まります。均等割には、森林の整備にあてる森林環境税(年1,000円)も含まれています(2026年時点)。
そして二つ目の特徴が、支払うタイミングです。これが、社会人がよくつまずくポイントです。
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出典=総務省・国税庁。住民税の所得割は道府県民税4%+市町村民税6%=標準10%。均等割・森林環境税は2026年時点の目安。
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会社員は「年末調整」で、いったん精算されている
ここまでの計算、自分でやった覚えがない——という人がほとんどでしょう。それでいいのです。会社員の所得税は、勤め先が代わりに精算してくれています。
毎月給与から引かれる所得税は、実は仮の金額です。1年の終わりに、生命保険料控除などのその人の事情を反映して正しい税額を計算し直し、払いすぎ・不足を調整する——これが年末調整です。
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だからこそ、控除の存在を知っておく値打ちがあります。年末調整で保険料控除の証明書を出すかどうか、医療費が多い年に確定申告をするかどうかで、戻ってくる税は変わります。天引きは固定でも、申告する控除は自分で動かせるのです。
そして——所得税と住民税に隠れていますが、給与からは社会保険料も引かれています。多くの場合、その額は税よりも大きい。ただし社会保険料は「守りの装備の掛金」で、税とは性格が違います(詳しくは、この城塞の社会保障のクエストへ)。
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今回のまとめ
- 税は年収にではなく課税所得(=収入−控除)にかかる。控除が増えれば税は軽くなる。
- 控除は2段——給与所得控除(会社員のみなし経費)と所得控除(基礎控除など個人の事情)。
- 累進課税は超えた分にだけ高い税率がかかる階段(限界税率)。全体が一律で重くなるのではない。
- 住民税は前年の所得に翌年課税、主な部分は原則一律10%。均等割も少し加わる。
- 会社員は年末調整で精算。個別の計算や申告は国税庁・税務署・税理士へ。
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今日からできること
- 最新の給与明細を開いて、「所得税」と「住民税」の金額を、まず名前だけ確かめてみる。
- 去年の源泉徴収票を探し、「支払金額(収入)」と「給与所得控除後の金額(所得)」の差=1段目の控除を見てみる。
- 自分が使えそうな所得控除(社会保険料・生命保険料・扶養・医療費など)を一つ思い出し、年末調整や確定申告で申告し忘れていないか振り返ってみる。
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この学びを使う前に
※ 個別の状況に関わる判断は、必要に応じて税理士・FP等の専門家にご相談ください。
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