株式の高峰
財務3表をつなげて読む
このクエストで晴らす霧:「決算書は、どれか1つを読めば十分」というもやもや
全48枚・約16分
本コンテンツは一般的な金融知識の学習用です。将来の成果を保証するものではありません。
決算書を初めて開こうとすると、3つの書類が待ち構えています。損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)。
「3つも読むのは大変。いちばん大事な1つだけ読めば、十分でしょう?」——そう感じたことは、ありませんか。
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その感覚は、責められるものではありません。時間は限られているし、要点から知りたいというのは誠実な効率の感覚です。実際、3つの表にはそれぞれ独立した読み方があり、1枚ずつでも多くのことが分かります。
でも、ひとつ問いを立ててみましょう。1枚だけでは決して見えないものが、あるのではないでしょうか?
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あります。それは「つながり」と「裏取り」です。
3つの表は、1つの会社の同じ一年を、別の角度から写した3枚の写真。1枚ずつ眺めるのと、3枚を重ねて読むのとでは、見える姿がまるで違います。このクエストは、その重ね方の物語です。
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先に、この記事が「やらないこと」を言っておきます。
3表をつなげて読めるようになっても、次の株価は当てられません。 値動きがこれからどうなるかは、誰にも事前に分からないからです。この記事の値打ちは、当てる技術ではなく、会社の稼ぐ構造・体力・お金の流れを1つの物語として読めるようになること。まず、3枚の顔ぶれを短く確かめ直しましょう。
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PL(損益計算書)は「この一年でいくら売り、いくら利益が残ったか」という一年の成績——『PL(損益計算書)の読み方』で解体する表です。ここでは「今年の実りを写した1枚」とだけ思い出せば十分です。
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BS(貸借対照表)は「これまでに何を持ち、その元手がどこから来たか」を写す表——『BS(貸借対照表)の読み方』を旅した人もいるでしょう。ここでは「創業からの蓄えを写した1枚」と思い出せば十分です。
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CF(キャッシュフロー計算書)は「現金が実際にいくら入り、いくら出たか」の記録——『CF計算書と黒字倒産の謎』では「利益と現金は別物」が合言葉でした。ここでは「現金の流れを写した1枚」と思い出せば十分です。
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この3枚を、1つの農園にたとえてみます。
- PL=畑の一年——今年どれだけ実ったか(成績)
- BS=蔵の中身——これまで何を蓄え、元手はどこから来たか(蓄積)
- CF=水路の流れ——現金という水が、実際にどこから来てどこへ流れたか(裏取り)
では、この3枚は、書類の上のどこでつながっているのでしょうか?
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結び目は、利益です。
PLのいちばん下の行に立つ数字——当期純利益。この数字は、PLで役目を終えるのではありません。そこから、旅を始めます。
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- ① PLで当期純利益が生まれる——一年の実りが確定する
- ② 配当などで社外に出た残りが、BSの純資産の中の「利益剰余金」に積み上がる
- ③ CFが現金の実際の出入りを記録し、利益の物語の裏を取る
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架空の製菓会社モリノ製菓で見てみましょう(説明のための架空例です)。
今年の当期純利益は10億円。うち2億円を配当として株主に払い、残りの8億円が利益剰余金としてBSに積み上がる——翌年のBSでは、純資産が8億円ぶん厚くなっています。これが毎年繰り返されるので、BSはPLの歴史が積み重なったアルバムにもなっていくのです。黒字が続けば蔵は厚く、赤字が続けば蓄えは取り崩されます。
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では、3枚目のCFは、なぜ要るのでしょうか。
PLで利益が出ていれば、そのぶん現金も増えているはず——そう思えます。利益は出ているのに、現金が足りない。 そんなことが、ありうるのでしょうか?
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あります。しかも、珍しいことではありません。
会計のルールでは、売上は代金を受け取る前でも記帳できます(掛け取引)。商品を納品して請求書を出せば、入金が数か月先でもPLには売上と利益が立つ。つまりPLの利益には、「まだ入金されていない約束」が含まれているのです。
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モリノ製菓の続きで確かめます(架空例)。
大口の取引先に掛けで納品し、帳簿は黒字。でも入金は3か月後です。その間も、材料の仕入代金や給料は現金で出ていく。帳簿は黒字、手元の現金は細る——このずれを映すのが、3枚目のCFです。
本コンテンツは一般的な金融知識の学習用です。将来の成果を保証するものではありません。
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つながりの地図が、手に入りました。ここからは、この地図の上で割り算を始めます。決算書の数字は、単独では意味を語ってくれないからです。
たとえば、当期純利益が100億円の会社。この会社は「すごい」のでしょうか?
本コンテンツは一般的な金融知識の学習用です。将来の成果を保証するものではありません。
それだけでは、分かりません。
元手200億円で100億円を稼いだのなら、目を見張る効率です。元手2兆円で100億円なら、話はまるで違う。数字は、割り算ではじめて意味を持ちます。 そして大事なのはここです——その割り算の多くは、分子と分母が別々の表から来ます。
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ROE(自己資本利益率)=純利益÷自己資本——ふやしの山脈『株式分析の基礎』で出会った人もいる物差しです。今回はこの物差しを、「どの表と、どの表の割り算か」という新しいレンズで読み直します。
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ROE=純利益(PL)÷自己資本(BS)
分子は畑(今年の実り)、分母は蔵(株主の元手の蓄え)。2枚の表をまたぐ割り算です。
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似た顔の物差しに、ROA(総資産利益率)があります。分子は同じ純利益(PL)。違うのは分母で、自己資本ではなく総資産(BS)——借入も含めた、会社が使える財産の全部です。同じ会社でもROEとROAの差が大きく開くことがあり、その差を生むのは借入の多さ——ここは後で、この記事の山場につながります。
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ROA(分母=総資産)
借りたお金も含めた全財産で、どれだけ利益を生んだか。「会社ぜんたいの稼ぐ効率」を測る。
ROE(分母=自己資本)
株主の元手だけを分母に、どれだけ利益を生んだか。「株主から見た稼ぐ効率」を測る。
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割り算には、表の内側で完結するものもあります。たとえば営業利益率=営業利益÷売上高。どちらもPLの数字で、本業の利幅を測ります。
ここまでの物差しを、「どの表の割り算か」で束ねてみましょう。
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- 表の内側で割る——営業利益率(PL÷PL)=本業の利幅/自己資本比率(BS÷BS)=土台の頑丈さ
- 表をまたいで割る——ROA・ROE(PLの利益÷BSの元手)=稼ぐ効率
- 売上と資産で割る——総資産回転率(PLの売上高÷BSの総資産)=資産を売上に変える速さ
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「ROEは何%あれば良いのですか?」——気になるところですが、この記事では線を引きません。
一般に「10%前後がひとつの目安」などと言われることはありますが、これは制度で決まった数字ではなく、業種と時期で大きく変わります。目安の暗記より、同じ業種・同じ時期の平均と比べる——『株式分析の基礎』の土俵の話が、ここでも効きます。
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ここからが、この記事の頂上です。
架空の2社を用意しました。食品スーパーのハルカワ堂と、製薬会社のツグミ製薬(どちらも説明のための架空例です)。ROEは、どちらも15%。
この2社は「同じくらい効率よく稼ぐ、似た者どうしの会社」と言えるのでしょうか?
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答えは、ノーです。
同じ15%でも、中身がまるで違うことがあります。その中身を開けて確かめる道具が「デュポン分解」——約100年前に米国の化学メーカーの社内で使われはじめた手法の名が、そのまま呼び名として残ったものです。ROEを、3つの部品に分けます。
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ROE=純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ
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なぜこの掛け算が成り立つのか。3つの部品を分数に戻すと見えてきます。
(純利益÷売上高)×(売上高÷総資産)×(総資産÷自己資本)——隣り合う「売上高」と「総資産」が打ち消し合い、残るのは純利益÷自己資本、つまりROEそのもの。式を変えたのではなく、1つの割り算を3つの意味に切り分けたのです。
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- 純利益率——売上のうち、いくらを利益として残せたか(利幅)
- 総資産回転率——資産を1年に何回、売上に変えたか(回転の速さ)
- 財務レバレッジ——自己資本の何倍の資産を動かしているか(借入というテコの効き具合)
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では、ハルカワ堂とツグミ製薬。それぞれの15%は、どんな3つの数の掛け算でできているでしょうか。
スーパーの店頭と、製薬会社の研究所を思い浮かべてください。自分の予想を決めてから、次のカードで答え合わせを。
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ハルカワ堂(架空のスーパー)
純利益率2% × 回転率2.5回 × レバレッジ3倍 = ROE15%。薄い利幅を、商品を速く何度も売る「回転」で積み上げる。
ツグミ製薬(架空の製薬会社)
純利益率15% × 回転率0.5回 × レバレッジ2倍 = ROE15%。回転はゆっくりでも、1回の「利幅」が厚い。
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同じ15%の中に、正反対の物語がありました。
小売は回転で稼ぎ、製薬や大型設備で動く装置産業は利幅で稼ぐ——数字の構成そのものに、その会社の商売のかたちが現れます。1つの数字を3つに開けるだけで、ビジネスモデルの輪郭が読めてくる。これがデュポン分解の値打ちです。※数値は説明のための架空例です。
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だから、業種が違えば「ふつうの形」もまるで違います。
たとえば銀行業は、預金という他人のお金を預かって運用する構造そのものなので、財務レバレッジが10倍を超えることも珍しくありません。「レバレッジが高い=ただちに危険」ではなく、その業種の構造ごと読む。1つの目盛りを、すべての業種に当てないことです。
「株式分析の基礎」で「借入はROEをかさ上げする」という予告に出会った人もいるはずです。今度はその仕組みを、デュポンの3つ目の部品として開けます。ここで、少し意地の悪い問いを。3つ目の部品「財務レバレッジ」だけを大きくしたら、稼ぐ力が何も変わらなくても、ROEの数字は上がるのでしょうか?
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上がります。ここが、この物差しのいちばん注意深く見るべきところです。
架空のカケハシ運輸で確かめます。純利益30億円・自己資本600億円なら、ROEは5%。ここで借入を増やし、自己資本を300億円まで薄くしたとします。純利益が30億円のままでも——
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自己資本を半分にしたとき、純利益が同じままでもROEの数字はこうなる
2倍
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この「2倍」の正しい読み方です。
稼ぐ力は、1円も増えていません。 割り算の分母が薄くなっただけです。テコで持ち上がったROEは、うまくいかない年には逆向きにも大きく振れやすくなります。高いROEに出会ったら、まず「どの部品が持ち上げているのか」を開けて確かめる——それが、3表をつなげて読む人の作法です。
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テコの見抜き方は、シンプルです。
ROEの隣に、同じBSから計算できる自己資本比率(自己資本÷総資産)を並べること。財務レバレッジは自己資本比率の裏返しなので、この1枚を足すだけで中身の見当がつきます。
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ROEが高く、自己資本比率も厚い
利幅や回転で稼いでいる形が読み取れる。テコへの依存は小さめ。
ROEが高く、自己資本比率が薄い
テコ(借入)の寄与が大きい可能性がある。借入の中身や返す力まで、あわせて読みたい形。
土台の頑丈さそのものの読み方は、『BS(貸借対照表)の読み方』が本丸です。
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最後に、この道具一式を実際の読みでどう使うか。思考の型は、4歩です。
- ① 業種の「ふつうの形」を知る——利幅型か、回転型か、テコの目盛りはどれくらいか
- ② 気になる会社のROEを、同じ3つの部品に分解する
- ③ 業種の平均との「差」に、理由の仮説を立てる——利幅が厚いのはなぜ?
- ④ 仮説を手がかりに、その会社の強みとリスクを立体的に読む
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数字の出どころも、確かめておきましょう。上場会社の決算書は、有価証券報告書なら金融庁の開示システムEDINETで、決算短信なら日本取引所グループ(JPX)の適時開示情報で、無料で読めます。証券会社の銘柄情報ツールにも主要な指標は載っていますが、元の書類にあたる型を持つと、読みは一段深くなります。
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ここから先の道は、2つに分かれています。物差しを組み合わせて立体で読む道は『指標の組み合わせ方』へ。1年の写真ではなく10年の映画として読む道は『10年データで実力を見る』へ。3表のつながりという背骨は、どちらの道でもそのまま効きます。
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最後に、最初の約束を思い出してください。
3表をつなげて読めるようになっても、次の値動きは当てられません。それでも、値打ちははっきりあります。稼ぐ構造(PL)と、体力(BS)と、お金の流れ(CF)を1つの物語として読めること。読める人にとって、決算書は「難解な数字の束」ではなく、会社が語る物語に変わります。
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今回のまとめ
- 3表は同じ一年を別角度から写した3枚の写真。PL=今年の実り、BS=蓄え、CF=現金の流れ。
- PLの純利益は、配当に出た残りがBSの利益剰余金へ——BSはPLの歴史のアルバム。
- 利益と現金はずれる(掛け取引)。PLの物語は、CFで裏を取る。
- 指標は「どの表とどの表の割り算か」で読む。ROE・ROAは表またぎの割り算。
- ROEは純利益率×回転率×レバレッジに分解できる。高いROEは、まず中身を開ける。
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今日からできること
- 気になる会社の決算短信か有価証券報告書で、純利益・自己資本・総資産・売上高の4つを書き出してみる
- ROE・ROA・総資産回転率を自分の手で割り算し、「どの表とどの表を割ったか」を言葉にしてみる
- ROEを3つの部品に分解し、その会社が「利幅型」か「回転型」か、テコはどれくらいかを読んでみる
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この学びを使う前に
※ 本記事で言及するサービス・商品名は説明のための例示であり、特定の商品・事業者を推奨するものではありません。
※ 本記事のシミュレーションや過去のデータは、将来の結果を保証するものではありません。
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